自分でできるネズミ駆除 – ネズミの習性と忌避方法

自分でできるネズミ駆除 – ネズミの習性と忌避方法

はじめに

長く利用し続ける住居や店舗、倉庫といった家屋には、必ずトラブルが発生します。家屋で発生するトラブル一つに建物に侵入する害虫・害獣による問題があります。その原因とする家の中を荒らしてしまう害虫・害獣として、ネズミやゴキブリ、アリ、シロアリ、ノミやダニ等、様々なものが存在します。 どこにでも起こりうる身近な問題なのですが、これらの問題を放って置くと、建物や家具の破損をはじめ、健康に影響を与える病原菌の媒介、アレルゲンの放出といった、財物の破損や健康上の問題を引き起こす可能性があり、早々に対処することが望ましいです。 その中でも、家屋に侵入するネズミについては、病原体を保持していることがあり、それらが家屋に持ち込まれると、前述のように、病気への感染、健康への悪影響が懸念されます。媒介される病原菌の例として、発熱、発疹、嘔吐を引き起こすレプトスピラ菌から、急激なショック症状や昏睡状態、死にも至るペスト菌まで様々で、非常に重篤な影響を及ぼす可能性も考えられます。その他にも、ネズミは塀や壁、電気配線、断熱材などをかじってしまうことで建物を損傷させ、停電や火災を引き起こしてしまうことや、食料品や日用品の損傷・汚損を招く等、様々な被害が想定されることから、家屋に棲みつくネズミへの対処が重要であることはご理解いただけると思います。 たとえ現在、お住まいにおいてネズミによるトラブルにお困りでなくても、お住まい周辺の予期せぬ環境の変化で突然来訪者としてネズミがやってくることもあります。実際、ネズミのトラブルとは無縁だった知人の住まいにおいても、隣人の住居の建て替えによって民家が解体されることになり、それまで潜んでいたネズミが移り住んで来たことで、その後しばらくネズミ駆除に困っていたなんてこともあります。特に、日本国内においては、家屋と家屋との間隔が狭い地域は多く見られ、ネズミが移り住むことが容易なこともあることから、ちょっとしたことでこういったトラブルに見舞われるケースもあります。 そのため、今お困りの方もそうでない方も、今後の参考情報として、ここでは家屋に棲みつくネズミの性質や対応方法について考えておくことで損はないはずです。ここではそんな家屋に棲みつくネズミについて考えていきたいと思います。

【家屋に棲むネズミの種類・特徴について】

まず、皆さんは家屋に棲みつくネズミにも種類があることをご存じでしょうか。日本国内においても、家に棲みつくネズミは何種類か存在します。ネズミ対策の方法を考えるにあたって、ネズミの種類や特徴について考えておくことは非常に重要です(詳細は、後ほどご説明します)。日本国内においては、家に棲みつく代表的なネズミとして、以下の3種類が考えられます。

ハツカネズミ

体長6〜9cm、体は小さくスマートな体形。好物の穀物保存庫がある港湾地域や農村、自然の多い郊外の住宅などに多く生息します。警戒心は低い方で、罠など初めて見るものを警戒しません。種子類、穀類などを食べます。特徴としては、垂直移動が苦手なため、基本的には地上で暮らしています。また、身体が小さいため、シャッターや地面のわずかな隙間、雨戸の戸袋の隙間からも侵入することが出来ます。一般住宅の他に、農家の食糧倉庫などに現れることがあります。

ドブネズミ

体長22~26cm、ずんぐりむっくりした体つきです。台所、床下、トイレ、浴室などの水まわりに巣をつくり、警戒心はあまり強くなく、どう猛で自分より大きな相手にも立ち向かいます。肉や魚などの動物性たんぱく質、昆虫、雑草などを食べます。こちらも垂直移動が苦手なため、基本的には地上で暮らしています。特に、トイレやキッチン、浴室といった水まわりで遭遇することが多くあります。家の基礎にある通風口から侵入することがあります。

クマネズミ

体長17~20cm、ドブネズミよりひとまわり小さいです。天井裏、壁の中、押し入れの奥、天袋に巣をつくり、警戒心がとても強いです(そのため、前述の2種のネズミより駆除が難しい場合が多い)。種子、穀物、果実、昆虫などを食べます。クマネズミの特徴としては、綱渡りや垂直移動が得意で、家の外の配管や壁をよじ登ったり、電線を伝ったりすることができることから、地上より高い場所によく生息しています。地上より高い場所から気配を感じる場合はクマネズミである可能性が高いです。侵入経路としては、家屋の高い場所から室内に侵入することが考えられます。 上記のように、ネズミの種類によって、乾燥した場所を好むもの、湿度の高い場所を好むもの、自然環境に近い場所を好むものなど、ネズミにも様々な生活環境の好みがあります。 また、人間に対する警戒心の高さを考慮することも重要です。警戒心が比較的低いハツカネズミやドブネズミには、毒餌や罠にかけやすい一方、クマネズミのように警戒心が高いネズミは一定期間警戒して避ける習性があるため、その特性にあわせて駆除方法を考える必要があります。

【駆除方法について】

家屋に棲むネズミの特徴についてそれぞれ説明してきましたが、それでは、どのようなネズミ駆除の方法があるのか、皆さん自身でできる代表的なネズミ駆除方法についてご説明します。一般的な駆除の方法としては、以下のようなものがあります。

その①ゴミを片付ける

まずは、最も簡単なネズミ駆除の方法として、ネズミの餌となるゴミを定期的になくす、つもり家の中をきれいに掃除することが考えられます。ネズミがエサを求めて家に入ってくることを防ぐために、常日頃から家の周りのゴミを定期的に片付けましょう。また、保管した食品が簡単に食べられることも予想されます。ビニール袋やプラスチックに入れた食品は、容易に包装や容器をかじられてしまうことから、ガラス製の容器に密封して保存することや冷蔵庫の中に保存することをお勧めします。 ネズミは体が小さく、栄養を体にため込めないにもかかわらず、常に動き回っているため、1日に体重の1/4~1/3のエサを摂取しなければなりません。そのため、2~3日餌がないだけで自然に餓死していくと考えられています。また、ネズミは空腹時に警戒心が弱くなり、動きも鈍くなることで捕獲しやすくなることから、ネズミ駆除をする際には、まずエサを与えない環境をつくることが重要となります。 注意する点としては、ネズミは嫌いな食べ物がなく雑食のため、家にある食べ物を何でもエサにしてしまいます。人間の生活ゴミのみならず、植木や石鹸などの生活雑貨や、ペットのエサなども食べてしまうため、これらをネズミが触れられる環境に置かないようにすることも大切です。加えて、ネズミは「エサが豊富にあり」、「安全で暖かい」、「巣を作る材料がある」というような場所を好んで棲み処とします。従って、エサとなる食べ物や巣を作る材料にアクセスしにくく、匂いや音によってネズミにとって落ち着かない(詳しくは後述します)、ネズミとって住みにくい真逆の環境をつくるようにすれば、棲み処を変えて移動してくれることが考えられます。

その②ネズミの侵入経路(穴)をふさぐ

ネズミは、硬く鋭い前歯で何にでもかじりつきます。ネズミが通れないような小さな隙間であっても、前歯でかじって穴を広げてから侵入してくること可能性があります。 ネズミの侵入経路を塞ぐために、ただ隙間を埋めるだけではなくかじって破られないよう、網や金網で穴をふさぐ方法があります。また、粘土のような材質の防鼠パテを排水管やエアコンなどの開口部に詰め込み、隙間を埋めることも考えられます。防鼠パテにはネズミが苦手な成分である、わさびの成分やカプサイシン(トウガラシのエキス)などが含まれているものもあり、普通のパテより近づかれにくい、かじられにくいという利点もあります。 侵入口としては、床下の通気口、配管まわりの隙間、雨戸の戸袋、換気のために開けた風呂場の窓・勝手口などが考えられます。通気口に取り付けられた格子が外れていないか、格子の隙間がネズミの侵入を許すほど広くなっていないか、家の壁を貫いた水道管や排水管、ガス管、エアコンの配管まわりに隙間がないか確認しましょう。また、戸袋の奥が開いていることがあります。外壁と内壁の隙間が通じていると、そこから家屋への侵入を許してしまうことから、戸袋が劣化していないか、細かな隙間がないか確認しておくとよいでしょう。

その③ラットトラップ(ネズミ捕り器)を使う

ラットトラップは、ネズミを捕獲するトラップです。ラットトラップには、筒の中にネズミが入った時、筒の床に設置してある板をネズミが踏むことで扉が閉まり、そのまま閉じ込めて捕獲する踏み板式、ネズミがエサを取るとエサの重みがなくなった反動で扉が閉まり捕獲する捕獲かご式、ネズミがシートの上を通ったときに体が粘着シートにからめとられ、見動きを取れなくさせる粘着式などがあります。トラップの設置においては、ネズミの糞や尿の位置からわかるネズミの移動ルート(ラットサイン)を利用します。ネズミは尿をしながら移動するという習性があるため、尿の跡を追いかけることでネズミの移動ルートが判明し、効果的に捕獲できます。ただし、注意点として、ネズミの尿には多くの雑菌がいるため、素手で触れないように気をつける必要があります。 その他のラットサインとして、家屋の隅の壁や柱には、ネズミの体表の汚れや体毛が付着していることや、足跡やフンが残っていることがあります。これは、ネズミの警戒心の高さから、壁際や物陰を身体が触れるようにして移動することがあるためです。もし、ラットサインがなかなか見つけられない場合には、家屋の隅をよく観察してみるとよいかもしれません。

その④忌避剤を利用する

ネズミが嫌うニオイや音を利用して、すでに侵入しているネズミを追い出し、新しいネズミの侵入を防ぎます。市販されているものとして、通り道などに吹きかける「スプレータイプ」、煙とニオイを発生させる「くん煙剤タイプ」、置いて使用する「設置タイプ」等があります。それ以外にも、ネズミが苦手なアロマオイル(ペパーミント・ハッカ)を使う方法もあります。ペパーミント等のオイルをネズミの通り道に垂らす、キャンドルを燃やすなどして、香りを広げることでネズミの棲みにくい環境を作ることができます。

その⑤殺鼠剤を利用する:

毒薬を餌に混入させた殺鼠剤を食べさせます。市販品には、即効性があるものや、繰り返し食べさせるものがあります。警戒心が強いネズミは、なかなか毒餌を食べないため、すぐに結果(効果)を求めず、設置して数日は様子を見ることになります。また、クマネズミの中には、これら毒性が効かないスーパーラットも存在することが確認されており、効果が見られない場合は、スーパーラット用の殺鼠剤の利用も考えられます。 一点補足として、上記の駆除を進めるにあたっては、ネズミが夜行性であることから、日没後と夜明け前に活発に動くことや壁際や物陰を通路として行動し、めったに広い空間は横切らないといった特性を考慮して進めるとよいでしょう。 これらの方法を試しても、うまくネズミを捕獲・駆除できない/ネズミが家に入り込んでしまう/棲みつくネズミ全てを駆除しきれないといった場合には、プロの駆除業者に相談することをおすすめします。

【ネズミ駆除の事例】

これまで様々なネズミ駆除の方法について説明してきましたが、続いては実際に日本国内で行われた大規模なネズミの駆除事例についてご紹介します。 以前テレビやネット等のニュースで報道されていたように、2018年に豊洲への市場移転が決まった築地市場では、正確な生息数は不明ですが、推定で1万匹を超えるネズミが生息するとされ、その駆除が大きな課題となっていました。築地市場では魚の切り落としや油脂、水産加工物、果実の切れ端などの大量のごみが出ることから、これほど大量のネズミを養うのに十分な生活環境を提供していたことになります。 これに対し、築地市場では2018年5月と8月、豊洲市場への移転前の9月15~17日の連休を利用して大規模なネズミ駆除が行われています。 実際に築地市場で実施された駆除方法ですが、大量の粘着シートや殺鼠剤の設置を中心に行い、その他にも、必要に応じて捕獲かごや配管内に防鼠ブラシを設置する等の対策が施されるなど、あの手この手を尽くした対策がなされました。 これは、危険への予知能力が高いとされるネズミは簡単に外部に逃げてしまうことや、さらには築地周辺には銀座等の日本を代表とする繁華街が存在していたことで、ネズミ駆除の影響(ネズミ被害)が外部周辺に波及しないように最善の対応を取られた結果でした。 粘着シートは置くだけで済む一見簡単な駆除方法ですが、前述のとおり、ネズミの通り道になる場所に的確に置かなければ効果を発揮できません。そのため、ネズミの足跡やフン、何かをかじった跡など、ラットサインが確認された場所に置かれました。 築地市場に棲みついていたネズミは、主にドブネズミやクマネズミだとわかっていました。ドブネズミはジメジメしたところを好むため、築地市場の下水などに多く潜んでいました。また、木登りや綱渡りが得意なクマネズミは、築地市場では青果卸売市場で多くみかけられました。これらネズミの生息場所や特徴を踏まえ、築地市場では、ネズミの通り道と考えられていた溝や排水溝の入り口などを中心に、5月の駆除では4800枚の粘着シートが設置されました。そして、8月には5400枚、9月には7000枚が設置されています。設置された粘着シートの枚数からも、これら対応が急ピッチで進められていたことがわかります。 また、粘着シートと同時に殺鼠剤も置くという対策も取られました。築地市場では即効性のある強い毒ではなく、警戒心の強いネズミでも口にする可能性のある弱めの薬が使用されました。殺鼠剤入りのエサを食べてすぐに死ぬことはなくても、弱らせることで粘着シートにもかかりやすくすることを狙ったのです。また、殺鼠剤入りのエサだけを置くのではなく、まずは普通のエサも置いて油断させて、数日後に殺鼠剤入りのエサを置くという工夫も行いました。ネズミは学習能力があるだけではなく、特にクマネズミは警戒心が強いため、すぐには粘着シートに引っかからなかったり、殺鼠剤入りのエサを食べなかったりするためです。これらの駆除対策を行った結果、2017年度は1195匹、2018年度は1773匹の駆除に成功しました。 築地市場に存在したネズミの生息数が正確に把握できないため、この一連の駆除対応の効果について評価することは難しいのですが、その後大きな問題が顕在化していないことから、一定の効果があったとは考えられます。 築地市場のネズミ駆除事例において重要なことは、繰り返しとなりますが、ネズミの性質にあわせて、様々な対応を考えたことです。例えば、クマネズミは地面を走り回らないことから、粘着シートによる効果が見込めないことから、同時に殺鼠剤を利用した駆除がなされています。警戒心の高いネズミにいきなり殺鼠剤の入ったエサを置いても効果が見込めないことから、3週間程度は毒の入っていないエサに慣れさせた後、毒入りのものに入れ替える等の工夫がなさなれています。 さらに、ネズミを築地市場の外に出さないように、ネズミが登ろうとしても滑り落ちてしまう波板の設置、波板の設置が難しい場所には防鼠ネットも設置されました。下水道や雨水管といった場所からも逃げ出さないよう、抜け出せそうな穴にはネットをつけて対策もされています。 実際に行われたネズミ駆除の実例を踏まえるといかがでしたでしょうか。単純に罠を仕掛けて終わりでなく、駆除の方法はよく考えられていると思います。築地市場での駆除の例のように、ネズミを駆除したい際には、駆除したいネズミをよく調べ、生息する種類を想定して、その生息場所や特徴にあわせて対応していくのが望ましいと考えられます。 ただ、皆さんが実際にネズミ駆除を検討される場合には、ネズミの種類を特定するのも難しいという意見はあるかと思います。例えば、物音や痕跡(足跡やフン、何かをかじった跡など)でネズミが存在することは確認できるが、ネズミの警戒心が高いため実際に目視できない、またはネズミが怖くて近づけない、見に行けないということも十分考えられます。 そんな場合は、まずはよく観察してみる、調べてみるという方法があるかと思います。 どのあたりから物音が聞こえてくるか、体毛やフンなどのラットサインはどのあたりで見られたか(台所やトイレなどの水まわり、地上付近なのか、天井や天袋など地上より高い場所なのか)を考え、考えられるネズミの特性にあわせて、罠をしかけたり、侵入口を塞いだりすることで、より効果が高いネズミ対策(予防や駆除)ができるのではないでしょうか。ご説明しました内容をご参考に、是非ネズミ対策を見直していただければと思います。

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